南十字星
– 背負いし十字架の果てに –

01

のこされし 見えぬきずなの ぬくもりを
   ありがたりしを かたるものなし

02

さとれしや 発することば なかずとも
   われつつみこむ とことわのあい

03

引き出しを 開けるやいなや 見なれた字
   記録の中の ありししあわせ

04

うつしよの 霞たちたり 山の端に
   なにびとたりぞ 来世わからむ

05

夏待ちて 雨戸通して 響く音
   あといく晩を 待てど暮らせど

06

我ゆかん おぼろげな星 仰ぎみて
   見えぬショールを 肩に羽織りつ

07

遠い夏 あのまなざしが 消えた日に
   とまった時計 いまや動かん

08

ほりごたつ ちいさきせきが いまなれど
   ありしおもひで セピアかがやく

09

転んでも 立ち上がれしは わが力
   それにましたり 絆の結び手

10

なつやすみ 子供のころの わくわくを
   いま再現す 自立せし今

11

濁流の 中を走らす 軽貨物
   スーツをはおり 時間気にして

12

出会いのま ときは移りて 別れのま
   歳月重ね 持てし宝と

13

ゆっくりと 己がこころに しょうじきに
   一歩すすめば 祝福のにじ

14

天高く 夏の夕暮れ 思い馳す
   祖国のために 散りし英霊

15

ふわふわと 風に舞い立つ 綿帽子
   降りたつ場所を おしえておくれ

16

夏の日に 祖国のために 散りし人
   そんな姿に たれを重ねん

17

水辺にて モカを片手に 思い馳す
   ライト照らされ 異国のよるを

18

あかりある 夏の虫々 けんめいに
   らせん描きて いのち燃やさん

19

そつぎょうの 仲間とのたび 遅れたり
   いまその距離は 縮またりしか

20

ハイカラの ちゃかりき祖母の おもかげを
   背筋ぴんとす ひとに求めし

21

おさなごの よたよたあるき まもるうで
   かぞくの暖を そこに見つけん

22

おおぞらに 翼ひろげて 舞い立ちぬ
   宿り木見つけ 力の限り

23

はらからの まなざし閉じし 記憶のま
   鎖はずして しばし休まん

24

せわしなく ヒール鳴らして 走れども
   バランスとりて 真綿明かさん

25

日々あるき 強固な鎧 纏ひしは
   脱ぎ捨てるにも ちから要とす

26

理屈では 解せざりしが ひとのあい
   秘めたるがこそ 真珠の小粒

27

めぐまれし 巣にて育った わかどりは
   小枝と草葉 谷へさがさむ

28

きずなとは おもうるままに かたち変う
   ときにはくさり ときにはたずな

29

もてしもの その事実をば かみしめよ
   どういかすかは きめるは己

30

何故なりか つたえてこその 言霊よ
   そのゆえなりを いまだわからむ

31

なきひとの やどる思い出 すてられず
   歳月かさね 文化のいずみ

32

過ぎさりし ひかりとけむり わらひ声
   ところちがえど 変わらぬなかま

33

さまざまな 場面ともにし ふくしんの
   とものしあわせ とことわにあれ

34

すうじつの 短かしいのち 知るたりや
   陽炎のぼる そらへひびけと

35

すだれおり 風鈴の音が 響くなか
   スイカにかけた しおの記憶よ

36

梅のあじ むかしはソーダ たしなめり
   いまはお酒と 苦い経験

37

前をみて ないもののかず かぞえては
   振り返れしや 薫るはなみち

38

暗闇で もがく己に とうめいの
   幾重の糸や そらへ虹おる

39

うけとりし ゆめへのバトン 持ち手かえ
   長く走れと スピードゆるめむ

40

ゆめならば 大きくいだけ さひわひは
   小さしものに 灯りともせよ

41

静寂を 切り裂くベルが 生み出すは
   幸さとるのと いたわるこころ

42

からっぽの 我を慕えし わこうどの
   無垢なひとみに どううつれしか

43

かたられぬ ことばなくとも まなざしに
   宿りしあいの シリウス求む

44

きぬいとを 梳きつつ耳に かけりたり
   夜のしじまに みをゆだねしや

45

わがあしで みちあるけしと 思えども
   いきぐるしさに まなこひらけし

46

安芸のくに こがねいろした ビロードと
   あかねいろした とんぼと瓦

47

まどべから 蜩の声 もれはいる
   みちのくのそら みどりこふ樹々

48

河口にて 足をのみせし 魔のかわの
   しろいカモメや 日を背にとばん

49

みちのくの 八重のひまわり ほほえむは
   荷物降ろして 楽の生きよと

50

あさがおを しばし見ぬのに 気づくとき
   生き急ぐのを やっと気づけし

父へ

想い馳す ふるさとの絵が おおいのは
   ゆめをもとめる 父のおかげか

母へ

世のために たたかうすがた ながめるや
   とびつづけるを 日々まもりたり